09 生命の絆

 

誰もが心の世界に

幾つもの扉を持っている

その扉の一つ一つに

一言づつ言葉が刻まれている

その言葉は『愛』であったり

『夢』や『希望』や『勇気』であったり

ありとあらゆる『信条』であったり

『智恵』や『教訓』であったりする

 

その扉には鍵が架けられていて

容易に開けることが出来ない

けれども この鍵を持っているのも

扉の前に たたずんで

その扉に直接ふれることが出来る

当人のみであるのでしょう

 

私は この扉を開ける

『夢』という名の光の扉を

中から幾つもの

はじけんばかりの灯火が飛び出してきて

生き甲斐と喜びとが

果てしなく湧きあがってきた

 

私は次の扉を開ける

『希望』という名の輝きの扉を

中から幾すじもの

まばゆいばかりの光が射してきて

豊かさとトキメキとが

限りなく湧きあがってきた

 

私は また次の扉を開ける

『勇気』という名のキラメキの扉を

中から幾とおりの輝きと

うるわしいばかりの光の道しるべとしての

克己心と安らぎとが

とめどなく湧きあがってきた

 

私は更に扉を開ける

幾たびも扉を開ける

そして扉の中へと入ってみた

 

そこは極み無き慈悲の世界

永久の優美の世界

悠久の調和(むすび)の世界

愛そのものの光明遍照なる世界

 

私は扉の方を振り返ってみた

すると総ての出入り口は

光明の世界で

一つに繋がっていた

心象として描くならば

そこに一つの家が建っていて

その家は扉も窓も沢山あり

壁も屋根も柱も

水晶のように透き通った場所もあり

灰色に黒ずんだ場所もあり

私の心が揺れ動くに従って

家の形や色あいが変わり

壁の厚みや透明度の明淡も

移ろいでゆくようである

 

ふと周囲を見渡してみると

同じような家が たくさん建っていて

扉を自由に出入りする人(心)も居れば

固く雨戸まで閉め切る家(人間)も居る

 

その家々に誰が住んでいるかは

表札を見れば判るが

ここで大切なことは

誰の家に対しても

光(生命)の供給は

等しく注がれているということである

 

私は再び自分の家(心)の中に入ってみた

家(人格)の中には大小いくつもの部屋があり

窓辺の明るい部屋もあれば

窓もない奥まった部屋もあった

それらの部屋(感情)にも扉があり

一つ一つの扉に

一言づつ言葉が刻まれていた

その言葉は『悲しみ』であったり

『苦しみ』や『痛み』や『失望』であったり

『慟哭』や『挫折』であったりもした

 

私は その中の一つの部屋に入ってみた

『絶望』という名の扉を開けて

 

そこには独りの青年が

膝を抱えて うずくまっていた

彼は私に気付くなり

小刻みに震えながら

深い溜め息を落とした

《どうしたのだ・・・》と訊ねてみると

彼は消え入るような小さな声で

《もう 何も ない・・・》と呟いた

私は彼が不憫に想い

扉の外の開かれた

自由な光の世界の存在を

くりかえし語ってみた

 

彼は ひとたび顔を上げ

興味深げに聞いてはくれたが

やがてまた小さく うずくまった

 

いまの彼に必要なものは

まばゆい光の世界(実在)を伝えることではなく

彼自身の心の傷を

手厚く介抱してあげることである

どういう経過をへて絶望感を持つに至ったかよりも

彼の心の痛みを共有して(わかって)あげることである

 

私は彼と語り合った

幾日も幾年月も

時には喜び合い

時には怒りに猛りながら

時として人生の滑稽さに

大いに笑い合ったりもした

 

いつしか彼は 私に心を開いてくれた

彼の顔には赤頬(あかみ)がさし

ふたつの瞳には輝きさえ漏れていた

 

幾年月も語り合う中で

すでに彼は 彼自身が

絶望に至った経過を十分に知っていた

彼は最初から それを知ってはいたが

認めたくなかったのであろう

 

私は彼と二人で部屋を出た

そして その部屋の入り口を見ると

扉には『絶望』という文字ではなくなっていて

『感謝』という言葉に変わっていた

それからの私と彼とは

無二の親友となったのである

 

私たちは時おり光の世界へ里帰りしながらも

自分たちの家(人格)の中の

いまだ閉ざされたままの部屋(感情)の中へと

幾度も入っていった

私たちの家族を

兄弟姉妹たちを救い出すためにも

 

そして いつの日か

家族(心)が一丸となって解り合い

いまだ閉ざされた他の家々(人々)の扉を

ノックする日が やって来るであろう

必ず やって来るであろう

それが私と彼との生命の絆(約束)であり

夢であり希望であり

結びの大道(生命道)であるからなのだ

 

 

 

05  実相流転 【光の道標編】