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101 悪境遇に染まらぬ草薙剣 |
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古事記の神話によりますと、十握剣(とつかのつるぎ)を最初に使ったのは建速須佐之男命でありました。 葦原の中つ国に降りた須佐之男命は泣きじゃくる夫婦と娘に出逢ったのです。 よくよく話を聞いてみると、恐ろしい八岐大蛇(やまたのおろち)が現れて、このたび大切な娘を生け贄に出さねばならないため、皆で悲しんでいたという…。 その運命を憐れんだ須佐之男命は娘を助けるために八岐大蛇を退治することにしたのであります。 まず須佐之男命は娘の身代わりとなるために女性の身支度をして八岐大蛇が現れる場所へと行きました。 その周囲に八つの酒樽を用意して強い神酒を注いで静かに八岐大蛇を待っていたのです。 暫くすると恐ろしい八岐大蛇が現れたのであります。 八岐大蛇は山々を跨ぐ程の大蛇であり、胴体は一つであるが八つの頭を持ち、尻尾も八つあり、目は赤黒く爛々とし、口から長い舌を出して火を噴き、腹部は血で爛れて、背中には鬱蒼と苔や木が生えていたと言います。 そうして八岐大蛇は女性の姿に化けた須佐之男命に近付き、最初に酒樽を見つけて八つの頭を酒樽に突っ込んで神酒をゴクゴクと呑み干したのであります。 すると強い神酒に深酔いした八岐大蛇はその場に倒れ、大イビキをかいて眠ってしまいました。 その転機を見計らって須佐之男命は隠し持っていた十握剣を振りかざして、八岐大蛇を切り刻んだのであります。 八岐大蛇の尻尾の一つを切り刻んだ時に、神剣である十握剣が歯こぼれする程に強力な剣が出てきました。 この剣こそ後の世で大いに活躍する草薙剣(くさなぎのつるぎ)であり、須佐之男命は天之村雲之剣(あめのむらくものつるぎ)として天照大御神に献上したのであります。 草薙剣は暗黒思想の八岐大蛇の胎内にあっても、神剣としての切れ味を失ってはいなかったのです。 むしろ悪境遇の中に居て悪色に染まらず、永らく幽閉の身にあっても朽ち果てることなき忍耐力(精神力)を身に付けていたのです。 この悪境遇に身を置かれ磨かれた流動的真理(草薙剣)は、時に神剣十握剣をも歯こぼれさせる程に強靭な神力を発揮するのであります。 |